未確認の遺跡の発見なるか?ミクロネシア、ポーンペイ島での最新の考古学調査

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長岡代表理事は、7月7日から18日まで参加している新学術領域研究『出ユーラシアの統合的人類史学:文明創出メカニズムの解明』(http://out-of-eurasia.jp/)の調査でミクロネシア連邦ポーンペイ島を訪れました。今回の調査の目的は、ポーンペイ島全体で行われる航空LiDAR(ライダーと読みます)測量調査に参加することです。LiDAR測量は、1940年代に遺跡から出土する炭化物から年代測定する放射性炭素年代測定法が開発されて以来の画期的な考古学の新しい技術とも言われています。この測量法では、ドローンや航空機に載せたスキャナーから照射されたレーザービームは植生を貫き、地表面からの反射により考古学的特徴の3次元形状を地図化します。広範囲の地域から大規模な遺跡を短時間で発見でき、中南米ではジャングルに隠されたマヤ文明の大規模な遺跡群を発見しました。

2018年にDouglas Comer博士を中心とする米国のCultural Site Research and Management(CSRM) Foundationが、この測量法でミクロネシアの世界遺産の巨石遺跡ナンマトル(ナンマドール)と隣接するチェムウェン島を測量したところ、予想もしなかった大規模な農耕灌漑遺跡群をチェムウェン島で発見しました(Comer et al. 2019、https://www.mdpi.com/2072-4292/11/18/2152)。ポーンペイでは今までこうした大規模な農耕遺跡が発見されておらず、関係者を驚かせました。オセアニアで首長制が発達する場合、農耕や交易などが首長の経済基盤となる場合が多いのですが、ナンマトルを建設したシャウテレウル王朝はそうしたものがわかっておらず、政治・宗教のセンターであったナンマトルで執り行った祭祀をもとにした宗教的な力をもとに全島を統治していたのではと考えていました。またナンマトルはサンゴ礁の上にサンゴ塊や石を積み上げてつくった人工島が集まった「都市」なので、作物を育てるのは難しく、ナンマトルに居住する王族や司祭者などの王朝のエリートは、平民が持って来る農作物を含んだ貢物で生活していたと考えられてきました。

LiDAR測量で発見されたチェムウェン島の灌漑遺跡群(Comer et al. 2019, Figure 11)

他のオセアニアの農耕遺跡の例から、今回見つかったチェムウェン島の灌漑遺跡で栽培されていた可能性が高い作物は、湿田に植えられるジャイアント・スワンプ・タロです。このタイプのタロはパン果とヤムイモの社会的な価値が高い現在のポーンペイの威信経済の中では価値が低く、当時の社会の中でどのような位置を占めていたのかが疑問に残りますが、灌漑施設の建設に労働力を投入すると生産性が高いため選ばれた、またナンマトル建設の労働者に供給された可能性があります。そのためどのように王朝の経済基盤となったのかは、今後のさらなる研究の必要がありそうです。こうした農耕施設はオセアニアではポリネシアとメラネシアで知られていますが、ミクロネシアでは知られておらず、シャウテレウル期(紀元後1000~1500年)に交流のあった西ポリネシアからの影響で建設された可能性があります。

今回のLiDAR測量は「出ユーラシア」科研のモニュメント班とCSRM FoundationがそれぞれNASA Interdisciplinary Science Programと文科省の科学研究費を使って共同してポーンペイ全島を対象として行うことになりました。ナンマトル、シャプチャカイ、サラプック、ウォネ、アワク、トレンレペンなどの地域首長の拠点となった大型複合集落の正確な遺構分布の確認や遺跡構造の比較にくわえて、未確認の遺跡の発見が期待されます。長岡代表理事は、初回の飛行に4時間同乗し、空からの島の風景をビデオ撮影しました:https://youtu.be/FA1HY0SvGxM

またパシルネの活動として、週末を利用してポーンペイの失われつつある口頭伝承のビデオでの記録、ユーチューブで公開する活動を継続し、4人から5話を記録しました:https://www.youtube.com/playlist?list=PL7c_0z1tMBDoJ2LVRvQfE_MN80tpXbVnD

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